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99展

ギャラリー1900で開催されていた基礎デッサン作品展が終了しました。授業の一環でギャラリートークも行われ、【力を入れた点】【反省点】【教員解説文に対する感想】などを順に話してもらいました。作品の一部と教員によるコメント解説を紹介しようと思います。

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片山貴栄子
木炭がしっかり付き、強さや大らかさを感じるデッサンである。特に左上の紙製の提灯状デコレーションの描き込みが秀逸である。細かいパーツの凹凸を一つ一つ根気強く描いていながら、全体の球状の立体感も表現されている。斜めに横たわっているボディは質感や重量感は出ているのだが肩から側面にかけての形が少し不鮮明な所が惜しい。影の暗い部分の木炭の付け方を工夫すると良いのではないか。下の方の際がやや弱く、画面の端の方やその先どうなっているかまで意識して欲しいところだが、配置されている布やボディやデコレーション、ビニール製の球体など質感が感じられ、全体としてのまとまり感がある。

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西田葵
木炭の美しさを感じる魅力的な素描である。木炭の粒子が紙の目に丁寧にのせられることで、独特な色味と質感を獲得している。全体として誠実にモチーフを描画しながらもこのような木炭の扱いができるところに作者の素材に対する繊細な感覚を見てとることができる。課題点としては画面左下の床面から奥へと向かう空間が表現し切れていない点があげられる。今回の作品ではモチーフへの描画と共に、床面からモチーフの間を抜けてX型に組まれた木材の下にある布へと鑑賞者の視線が導かれる構図をとっているため、上記したような空間表現は非常に重要となる。具体的な改善策としては、X型に組まれた木材の下にある布の明部のトーンをもう少しだけ暗く設定し、床面の布やその他のモチーフをより丁寧に描画できればさらに奥行きを感じる画面にすることができるだろう。今後、固有色や位置の異なる対象物を描く際に明部のトーンが似ないよう意識できれば、色幅が豊かでより美しい画面になるだろう。

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藤井笙子
静謐な白いモチーフと雑多なアトリエの床の対比がはっきりとした明暗の構図で描かれた印象的な作品である。丁寧に流れを追って描かれたロープが生き物のようにも見えて作品に不思議な魅力を与えている。そのロープの先が画面で切れる構図にしたことでより床の存在感が増しているように思う。ポットやアクリルボックスよりもロープや包まった布、床のクロッキー帳などの使いこまれたモチーフの方に存在感を感じるためか、作りこまれたモチーフなのに背景と共に日常の一部に見えてくるところが面白い。藤井さんの世界の見方が伝わってくる作品である。上部に比べると下部の机上の白が少し散漫になり、手前のガラスが他のモチーフよりも目立って見える。この作品世界での紙の白さを意識して表現すれば画面全体にもっと統一感が出ただろう。

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渡邉菜々
色面のアプローチが隅々まで行き届いており、画面の全体に気持ちが入っている。1枚の絵を仕上げる意気込みも感じ、絵に張りがある。こうした言い切りの強さはデッサンだけでなく、油絵、インスタレーションなどこれからの制作においても制作の強みになっていくので、自負してほしい。作者は“創作”の楽しみの中で質感やタッチを工夫模索しながらも、静物デッサンの基本となる物と物の関係性なども丁寧に描いており、力量も感じる。鉢の横の黒いオリジナルキャラクターの存在など、その世界観の強さからぱっと見ではわかりにくいのだが、近づいてみると、ガムテープと段ボールの接点や、段ボールの柔らかくかつ弾力のある折り目、シャープな断面など物の質感をとらえるためのポイントがしっかりと押さえられている。離れてみるとインパクトがあり、近づいてみると繊細な仕事を感じられるというのは作品として二度おいしい。長時間の鑑賞に耐えられる作品の大切な要素もしっかり押さえてあるのだ。

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藤井さつき
大モチーフを一心不乱に描き進めた。モチーフの隙間には制作中の学生が二名入っているが、そこに省略や絵画的な処理はなく、導入時の約束事のひとつとして挙げた “手前も奥も同じように描く”という投げかけに対する、秀逸な回答と言えよう。画面の主役は当然骸骨だが、それとほぼ同じインパクトで背景の人物の気配が浮き上がってくる。静物である人骨とモチーフを取り囲む生身の人物を区別することなく描くことが、この絵に不思議な世界感(生と死)を与えていることになる。無自覚な表現に、面白い物の見え方や物語性が潜んでいることはよくあることだが、こうした物の見え方に思慮深い観察が加わると、より一段階上の絵画となることを助言したい。フルパワーで対象に喰らい付く姿勢を大事にしつつ、絵画に対する解釈の幅を増やしていく姿勢が今後の制作で重要な要素になっていくだろう。
もっともっと対象を見つめよう。左の人物の尻の際と木製の馬の際が同一場所に接点がある。この見え方では遠近感が表現できないので、接点が一箇所に重なりすぎる場合は、重ねることにより前後の位置関係を分かりやすくしたり離して空間を作るなど、画面の中での関係性を動かすことも必要である。これはセオリーの一つとして覚えておいた方がよい。ヌルッとした湿度のある木炭の調子と質感は、特徴があり魅力的という点も追記しておきたい。

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村野万奈
それぞれのモチーフの質感や色彩の描きわけを丁寧に描き進めた緊張感のあるデッサンである。背景の制作中の学生や骸骨モチーフを省略する一方でコンクリートの穴に着目するなど、実際に見えるモチーフや背景を取捨選択することにより、空間や遠近感を作者独自の画面で構成していることが伺える。描き進める中で、余白が気になったのかもしれないが手前のモチーフではない私物、奥のイーゼル横の道具などは思いきりよく省いてしまってもよかったのでは。それらがないと間が抜けて見えてしまったのかもしれないが左上部分の黒い布の中の調子をもう少し丁寧にみるなど、画面全体の調子の見え方を工夫すれば白く抜けた床部分も抵抗感を感じられたのではないか。手前の木っ端、板の質感の描き分け、表現が豊かである。
画面の中の白い調子も効いており、木炭のノリもよい。ハイトーンからダークトーンのコントラストも美しく、木炭デッサンという無彩色での限られた表現の中でなお色味を感じられる秀逸な作品である。

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伊藤朋子
手前も奥も、中心も隅も画面全体がモノで埋め尽くされている。モチーフ相互の位置関係、光、調子といった画面の全体感を保つ要素は、それぞれのモノの背後に控えている。モノを描いている実感が前面に溢れている。
椅子、布、床、材木・・・全てのモノが表情豊かに描かれ、手触りや重さを持ってその存在を主張しているが、全体の統一感はいろいろな要素のバランスを図ることによってではなく、むしろモノ同士の主張がぶつかり合うことによって保たれているのだ。力強い素描である。

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土ヶ端優子
作品から大モチーフの構造やスケール感に反応した作者の勘のよさが伺える。画面右下は最後まで眼前の学生とカルトンに遮られており見えていなかったのだが、授業内でのハンディキャップをものともせず結果としては大きな丸太や、木製の馬など、手前にあるものを思い切って画面上で切ることによって空間の広がりや、静物でありながらも画面の中に「動」を感じさせる絵に仕上がった。暗い調子から明るい調子まで、幅広く表現されていて、色味も美しい。最後の1時間に指摘した部分だが、ハイトーンの中の細かい調子(背景部分)が、単調になりがちな一番奥の空間をより豊かで深い表情に昇華させることに成功した。繊細かつ大胆な描き込みが目をひくのは勿論のこと、対象から受けた新鮮な感動、強い印象を確実に捉えた構図配置に魅力がある作品である。

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高松怜佳
素描(デッサン)の一歩先、絵画としての魅力に富んだ作品である。指の先端を使った形の探り方が独特だが、そこには空間の印象を捕まえた心地よさがあり、作者の視点や感じ方が伝わってくる。
諧調の幅にもう少し操作が欲しかった。形態感が弱い。ここでは手前の段ボールの影部分にもう少し強い色を与えるか、背景の面のハーフトーンをもっと丁寧に探るかに解決方法が見いだせただろう。イーゼルの形をもっとよく見るべき。形を決めて描くのが難しい場合は、そのあたりのトーンをもう少し丁寧にみて空間を掴むよう意識するとよい。左下の温室部分はもう少し見え方、描き方を探るべき。一方で右側の背景植物の存在感、立ち現れ方は心地よい。形にとらわれず、物質の存在感に反応し、呼吸を感じるようなタッチが印象的であり、独自なものの見え方と「描く」という身体的行為が素直に結びついた快作である。改善点を挙げたてみたが、そこを充分に補う絵の魅力がこの作品にはある。自身の世界観を大切にしよう。

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日塔唯華
窓から降り注ぐ光りの美しさを意識することによって、逆光の中に置かれた椅子というモチーフから人が今までそこに居たような気配さえ感じさせる作品となった。自らが感じた美しい瞬間を作品の中に留めたいという意志がはっきりしていて、その目標に向かって試行錯誤を繰り返しながら描ききったことを評価したい。それぞれのモチーフの質感と光のあたっているところをよく観察し、丁寧に木炭で調子を合わせて描いている。たくさんあるモチーフの中から選んだ椅子とグラスは静謐な空間を表現している。今後も制作の課題を自ら設定して前向きに臨んでいってほしい。

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