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洋画専攻絵画コースの3年生「コンペティション」という授業のご紹介をします。


2000年代は「コンペティション・コンペ」「公募展」隆盛期といえるくらい多くの企画と機会が生まれている。

いわゆる美術作品の競技会的なものからアーティスト・イン・レジデンスといった地域に関わるプロジェクトまで、その対象となる内容と求められる表現は多岐に渡る。以前のような単純に比較され評価されるという競争原理は薄れ、むしろ如何に適正な理解をしていけるかという歩み寄りや情報の提示といった段階が重要視されるようになってきている。後先はともかくとして結果的には多用な表現がコンペで認められ、柔軟な芸術表現の実践と社会へ紹介される機会になるなどアーティストとしての社会参画の契機としても機能しているのではないだろうか。

そして、その段階的な評価システムは、キャリア形成と助成や奨学生・奨学金のような制度にも発展し、美大生にとってもより身近なものになった。

この授業では、その『コンペティション』自体について考えると共に、作品制作や表現を行うものとして、これまで評価される側として一方向から捉えていた視点を反転して、評価する側としても作品と表現に関わってもらいたい。

そこで前期の授業からの継続としてエスキースや自身の制作を進めながら、より現実的に既存の「コンペティション・コンペ」「公募展」のフォーマット・書式を基にした展示計画を立ててもらいます。

また、最終的な課題提出作品(作品のサイズや使用メディアは自由です。特に今回は表現行為の多様化も考慮する。)を教員が審査し各教員賞(各教員の講評コメント付き)を発表します。

各学生にも他の学生の課題提出作品に対して票を投じてもらいたいと思います。


例年後期のはじめから女子美祭まで行う授業で、制作したものは教員から賞を与えられ、美祭でアトリエに展示をするのですが今年は女子美祭もオンライン。
実技授業もオンラインを中心に、制作指導を行いました。

アトリエを利用している学生もおりましたが大半は自宅からの制作となり、制作環境はバラバラ。
そこで今年はB1サイズにプリントしてアトリエに展示をするまでを一つの流れとし、キャプションやテキストまでを考える授業となりました。アトリエ使用していた皆さん、展示作業を手伝ってくれてありがとうございました!

 

受賞作品と、講評文を紹介いたします。

 

 

大森 悟賞

「同じもの、ちがう皮膚」吉長 紫苑さん

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わたしたちが人を想像したときに、それは裸か、服を着ているのか。

下着姿を想像したとすれば、今回の吉長さんの作品に少しだけ歩み寄れるのではないか。性差、人種、年齢、習慣、その差異と共通点に対する洞察は、肉体そのものよりも下着という肌の縁取りの造形のなかに浮かび上がるということを「同じもの ちがう皮膚」は教えてくれる。鮮やかにも、どぎつくも見える暖色に覆われ変面と化した下着は、剥ぎ取られた皮膚の標本のようでもある。そして、一枚の下着として一人の人間の存在を浮かび上がらせたときに、違った要素を持つ二人の人間を相対させるのではなく同存させることで、なぜか不思議と私たちの誰もが抱え込んでいる生の現実をみつめることとなる。そこには刹那的な生と永劫的な葛藤が生じているのかもしれない。

そんな人間の人生を想像し、死を思い浮かべるのも至極当然なことだろう。墓地に置かれた色鮮やかな作品は、既に幻だったかのように色彩を失い微かに残された皮膚の存在を墓標のように画像に刻んでいる。死とともに消え去るのではなく、では何なのか。

私たちに問いかけてくる作品で、私にはすぐには答えが出せない。作品から生滅に向き合う機会もそう簡単に生まれない。思考やその一連の展開と表現方法の完成度の高さを評価しました。作品に出会えたことを感謝します。

大森 悟

AKI INOMATA賞

「真夜中のメリーゴーランド」 宗像 里奈さん

●本人テキスト●

「今回制作したものは、水彩で描いたドローイングを元に、ゾートロープのような装置の回転 する動き、落ち込んでいるような寝落ちるような様子の女の子を並べた立体に、コマ撮りで 制作した星が瞬く様子のアニメーションを投影したインスタレーションになります。

 

遊園地の乗り物のように

公園の遊具のように

時計の針や振り子のように

単純に、気を張らずに、でも楽しんで、

 

ぐるぐるとまわれ

 

重ねていけ。

 

………………………

 

ある日の夜、悩みが尽きなくて夜が明けてしまった。そのときの私は尽きるまで考え込むつ もりだったのだろうけど、陽の光が、熱が私に時を知らせてくれた。

私の脳内がぐるぐるとまわっている内に、太陽は地球の反対側まで行ってまた戻ってきてい た。

きっとそれの繰り返し、きっとそれの積み重ね。

それでも昨日と同じところにはいないのだろう。

 

………………………

私の生活がまわればまわるほど、感情が揺れるほど、新しい事を見つけ、気付く。

それを忘れないように(たまに忘れても)脳や心に刻みつけて、また時を重ねていく。」

●講評文●

アニメーション自体がまず気持ちが良いですが、
コマ撮りアニメを動く紙立体に投影し、その影をも作品に取り込むという、
今までにない新しい表現を創造している点が素晴らしいと感じました。
影を効果的に映像と組み合わせたことはオリジナリティが高く、今まで見たことがない作品になっています。
今後の展開にも期待しています。

AKI INOMATA

 

加茂 昂賞

「食卓」 鈴木 ちひろさん

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●本人テキスト●

「今回、家族と自身の多面性の関係をテーマに、折る という行為を採用し制作をしました。家族は、無意識に影響しあいます。その影響から様々な顔を、一面を生み出していきます。その様子を食卓での晩餐に見立て、お互いの顔をお互いが食事し、吸収してゆくさまを表現しました。向かい合っている2人は相互に吸引をしあっています。

「折る」という行為、これは私が以前から人間関係においての自身の多面性の構築や、人格の構築の際に感じていた感覚です。折り紙に線をつけ面を分割してゆく感覚、これは様々な場所や時において、出会った人の数だけの違った顔が作り上げられてゆく感覚と大変相似していました。この多面性の根源には、家族というつながりから生まれた関係や影響力が今も付きまとっています。家族に見られたくない自分と、家族に見られている自分、分けているつもりでもどこか家族には全て見透かされているような感覚に陥るのです。それは私も彼らを見透かしているから、そしてそれらが大変私と似ているから。見せている多面性も隠し持つ多面性も、家族関係に属する私という存在の根本が出発点だから無理もありません。ただ、食卓を囲み顔を合わせた時、自分しか知っていて欲しくないことを、自分の様々な一面を、口をすぼませて食事のように吸引される、それが怖いと思ってしまうのです。そして私もその一員であることを改めて自覚したのです。」

●講評文●

私の今回の評価の基準は、作品のコンセプト、作品の完成度、プレゼンの分かりやすさ、そして社会性の4つです。社会性とは、簡単に言えば社会の中において自分の立ち位置をどう意識しているかどうかということです。

鈴木さんはこれまでもキャンバスや紙を折り曲げて人間の特性を表現しようと試みてきたとのことですが、今回はテーマを多面性、またモチーフを家族としたことで、折るという行為が鈴木さんの模索する表現にうまくマッチし、鑑賞者に対し説得力のある明快な作品になっていたと思います。人間性、多面性、家族、折る、という要素がうまくまとまっており、完成度の高い作品になっていたと感じました。

まず初めに家族をチョイスしたことがよかったのかと思います。家族って、もともと良い部分も嫌な部分も知り尽くしているようで、実は結構何も何も知らなかったりする特別な存在だと思います。家族という誰もが共感できる要素が最初に設定されていることで、折ることで生まれるエフェクトが鑑賞者に面白く作用したのだと思います。さらにコロナ禍で家族と過ごす時間が増えたであろう今の社会的状況を思わせる食卓という設定も良かった。直接的にコロナ禍に言及している訳ではないですが今現在の実感が作品に反映されていると感じました。

折り方も曲線を使ったおり方はテーマと合っていたように思う。見る角度によって顔の表情が変わって見える感じも実際に見てみたいと思わされました。ただ、吸う吸われるということが作品からはちょっと分かりづらかったです。しかしそうやって具体的な関係を考えたことがこの折り方に反映されるとは思うので、もうちょいわかりやすい説明の仕方が必要だったのかな?

あとは実際に見ないと判断できない部分ですが、顔の描写のクオリティーや、顔以外の服や背景の白の部分の処理の仕方などはもっとブラッシュアップできる部分かなと思います。折り目を綺麗に作る素材は何が良いのかなども試す必要があると思います。

しかし、多面性というキーワードと折るという表現方法のセットは、色々なテーマに代替可能な可能性を秘めていると思います。家族とは社会的には一番小さいコミュニティの単位だと思いますが、例えばそこからその単位を地域だったり学校だったりバイト先だったり、さらには国だったりと、自分が含まれるコミュニティの単位を広げて考えて行くことも可能だと思います。もちろん、もっと親しい人との関係だったり、自分自身といったキーワードで多面性を掘り下げていくことも可能でしょう。そうやって考えるととても可能性を秘めた作品だなと感じます。今後の展開にも期待をしています。ありがとうございました。

加茂 昂

 

熊谷 直人賞

「侵食」 井手元 咲良さん

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●本人テキスト●

「世界的に起きたコロナ騒動。
外出自粛により自由に外出できないことでのストレスや感性への不安、経済が回らず職を失うものなど多くの人が何かしら苦しめられてることでしょう。
私も、外出自粛で学校へも行けずただ一日一日を家で過ごす日々でした。そして次第に絵を描くことすら嫌になり、何をするのも億劫で将来への不安が募っていくばかりでした。時には理由もなく泣き出したり、些細
なことでイライラするなどそれはまるでウイルスと同じように見えない何かに自身の心が侵されていくような感覚でした。
今回の作品は自粛期間中に増えた通販の段ボールを利用し、自身の心が得体の知れない何かに蝕まれていく様子を表現しました。」

●講評文●

まるで未知の生物が部屋中に侵食しているような、とてもインパクトの強い作品です。この作品は、新型コロナウイルスの影響による自粛期間中にネット通販などで溜まった大量の段ボールを作者自身の部屋に設置する事で作られています。この作品の作者である井出元さんは展示計画書の中で「外出できないストレスや不安を表現」という簡潔な言葉で作品のテーマについて表現しています。この言葉は作者個人の心情であると同時に、未知のウイルスにより生活様式を変化せざるを得なくなった世界中の多くの人々にも共通する言葉であり、「現在」を象徴するスケールの大きなテーマとなっています。つまりこの作品は、作者の自宅内というとても個人的な空間で起きた体験や心情、身の回りにある段ボールという素材を構成要素としながらも、世界中が現在直面している未体験のウイルスによる環境の変化や不安といった大きな問題を、独自の方法で鮮やかに表現している作品と言えます。作品の構成要素(作品テーマ・使用素材・設置空間・ビジュアル)が、強い必然性を持って一体化したとてもいい作品だと感じ今回の賞に選ばせてもらいました。

最後に、この作品の改善点について一点提案させてもらおうと思います。この作品の主軸となっている、段ボールが集まって作られた構造体の形状について若干の堅さを感じました。感覚的な言葉で申し訳ないのですが、要はもっといい形状、状態があるのではと感じたということです。中心の空洞から円形に広がっていく(ウイルスを象徴したような)基本構造は良いと思いますが、段ボールが設置された空間の構造とより強く結びついた構造体の形状があるのではないかということを感じました。制作前にイメージしていた基本構造をベースに、実際に段ボールを室内に設置していく時間の中で、壁や天井、家具などに反応し事前のイメージから逸脱していくような状態がより多く柔軟にあらわれてきたら、さらに強く魅力的な表現になるのではないか、ということを期待を込めて提案したいと思います。

今後の井出元さんの表現活動をとても楽しみにしています

熊谷 直人

 

関口 雅文賞

Trial of space」 田中 柚衣さん

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●本人テキスト●

「私の作品は、他者の目線が私の視点によって交差する絵画空間です。

私は今まで、自分が生活している渋谷や新宿などの都市生活等の記憶に愛着を感じたくて、 自身の目線を通してみる風景の記憶の重なりによってできる空間をテーマに制作していまし た。

今回の作品は、他者の目線から見る世界にも愛着を感じてみたいと思い、他者の目線を通してみる風景を重ねて新たな空間を作る、ということに挑戦しました。見る人は作品としての空間の中を歩くという体験ができます。

他者の視点を取り込むために、友人から写真をもらったり、どこかの誰かのTwitterアカウントから写真を拝借して、モチーフとしました。作品を、まるで道端にたまたま咲いてた花を見つけるみたいに、日常に近い距離感で見せてみたかったので、屋外である非常階段に点々と設置しました。

今回は他人の視点を使ったからこそ、以前より作品への個人的な自己投影や愛着が薄らぎ、モチーフの情報が少ないからこそ、作品制作中、画面上で起こる事や画面の亀裂等が以前より重要になり、そこを大切にして作品を制作しました。今までは写真をもとに手書きドローイングをしてそれを転写していたのですが、今回は他者の写真の視点の新鮮さを保つため、自分で描くのではなく印刷をそのまま転写して重ねるということに挑戦しました。作品制作中、画面上で起こる事や画面の亀裂等が以前より重要になり、そこを大切にして作品を制作しました。鑑賞者が、階段をのぼりながら作品を発見していくことによって、作品への愛着や発見する楽しさを感じていただけたらいいなと思っています。制作中風になびく作品が、まるで息をしているように見えたり、近距離を鳥が飛んだりし て、自然と作品の共存について考えられたのが新鮮でした。他者の視点が交差する絵画空間とはどういうものなのかについては今後もっと突き詰めてみたいと思います。映像作品としての動画についてももっと考えてみたいと思います。」

●講評文●

今回の田中さんの作品は、他者の記憶や目線という事を強く意識し、それらが自分の感覚と複雑に絡み合った事で、非常に面白い作品になった、と思いました。

既に1週目の経過提出で「他者の記憶、目線が乱反射」といったキーワードが出てきましたが、それが最後まで維持されたことも作品の強さに繋がったのではないかと思います。非常階段を登って行く行為と、乱反射を繰り返すというイメージはピッタリと重なります。それに作品を発見する様に上へ登って行く行為は、探検している様なワクワク感が伝わってきました。あと、動画の最後に空を見上げるのも良いな~って思いました。

恐らく、普段とは違う制作スタイルやプロセスを辿ったことで、今回は多くの困難があったと思います。学校とは言え、非常階段という公共の場所に展示するには許可が必要になりますし、本来展示空間でないところに作品を展示するには、どの様に設置するか、どう固定するか、安全かどうか…なども考えなくてはなりませんよね。動画を撮る時にも機材の問題、天候、時間、光源、通行を考慮する必要があります。撮影後も編集、投稿…など、本当に様々な手間が必要だったと推察されます。そういう部分も全てひっくるめて「制作」という事になるのです。作品づくりには莫大な手間とエネルギーが必要になるのですが、それを乗り越え、気持ちを支えるのが「これをやってみたい」という好奇心。「こうやったら絶対に楽しくなる、自分自身がワクワクする」というイメージ力。この2つが両輪となって前に進めるのです。

心のブレーキを踏まず、思いっきりアクセルを踏んで、これからもドンドン色んな事にチャレンジしてみてください。

関口 雅文

 

篠原 愛賞

「お肉じゃない」 励 霖青さん

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●講評文●

肉というインパクトの強いモチーフや、普通の風景の中に浮遊する椅子など、不思議な違和感を感じさせる状況を、確かな油彩の技術(筆致、色彩、構図)で描ききったところを評価しました。日常の中で目を向ける、気づくポイントがおもしろい。

どのような状況下でも淡々と手を動かして制作する姿勢にも好感が持てます。

この感性はそのままに、もっと画面を大きくするといいかも。大学のアトリエが使えるようになったらぜひ大作を描いてください。楽しみにしています。

肉の作品に関して参考にしてほしい作品は、フランシス・ベーコンの『磔刑図』『肉の絵』、『いのちの食べかた』というドキュメンタリー映画。もしよかったら見てみてくださいね。

篠原 愛

 

白井 美穂賞

「泥ーイング」 吉野 梢さん

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●本人テキスト●

「飼い猫を見ているとご飯を食べた後すぐに食べ物をねだってくるし、乗っている膝から降ろして不機嫌になってもまた乗ってくる。たぶん猫は過去のことに囚われないし、刹那的にものを見ているからだろう。
対して私は過去に囚われすぎている。うまくいかなくて見ているのも恥ずかしい作品を大事に取ってあったりする。
ドローイングは一瞬の動きを捉えるのに適していると私は思う。今描いた動きもすぐに過去となり、風化していく。しかし、作品を保存していることによって過去に執着、もしくは定着してしまうと思った。
泥は時間とともに乾き、いずれ風に飛ばされ雨に流れてしまうだろう。
作品が消えてしまうのはもったいないかと思ったが、その一瞬こそが刹那であり、時間の経過そのものであろうと考えた。泥とドローイングは時間が経過すれば記憶とともに流されていくような気がする。私はそれを捉えるために泥―イングを制作してみようと思った。」

●講評文●

吉野さんが自宅の庭にあるアスファルトの小路に泥で描いた猫の絵は、忙しく毛づくろいする猫の様々な姿を捉え、実物よりずっと大きく描かれていました。その複数の猫の姿が小路を進んでいくかのように連続させて描かれますが、泥は描いたそばから乾いていき、時間の経過によってアスファルトに白っぽく浮き上がる、僅かな痕跡として残ります。小屋の外壁トタンの波打った垂直面には、やはり泥を農作業用の大きなシャベルで投げつけることにより、ぶつかった泥の塊や流れ落ちた跡などが視覚的に強いインパクトを残しています。さらに外壁のもう一方の端には、大きな猫の姿が一匹、トタンにこびりついた泥の痕跡として、はっきりとその姿を記録写真に残しています。

これらを見てすぐに、「人はなぜ絵を描くのか」という古来の問いが私の頭に浮かびました。吉野さんは自らの行為を「泥ーイング」と呼び、ランドアートを参照していることから、作品はリチャード・ロングによる制作現地の泥を使用したマッド・ワークのシリーズを想起させますが、そればかりでなく、ラスコーの洞窟絵画やナスカの地上絵に現れる動物の姿をも思い起こさせます。近年の研究では、人類は太古から時間と空間への高度な知識を持ち、ラスコーの壁画に描かれた牛は星座を表すことで天体現象を記録するためのものだったとも言われています。吉野さんの自宅の広い庭、自身にとっては親しみのある自然豊かな環境で、非常に鋭敏な感覚をもって、自らの身体と空間、時間との関係を察知し続けた軌跡として、作品が生まれてきたようです。泥で描かれた柔らかく自由な線、その痕跡を写した写真の美しさ。移ろい消え去っていくものの儚さ、そのことによって一度限りの制作の行為が、より一層生き生きとしたものとして伝わってくると感じました。

自然への畏怖とともに、自然界にないものを作り出すという人間の営みとしての芸術、洞窟や庭といった限られた空間の中における無限の空間や時間への接続の試み。それらの先祖の営みの継承として、吉野さんの作品が見えてくるように思います。

白井 美穂

 

宗像里奈さん

吉長紫苑さん

 

プリント展示の様子

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